
廃業届は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに提出が必要です。廃業日は任意で決めることができますが、廃業日によって個人と法人の会計処理の手間が異なります。この記事では、スムーズに法人成りのスタートダッシュが切れるよう、廃業日の決め方について解説します。
この記事で分かること
- 廃業時に税務署に提出する書類
- 廃業届を出さないとどうなるか
- 廃業時の確定申告の注意点
Q. 廃業日は、いつでも大丈夫ですか?
A. 廃業日は、任意に決めることができますよ。しかし、一般的には法人の設立日の前日や12月31日をおすすめします。経理の計算がシンプルになります。
Q. 廃業届を出し忘れたら、罰金を取られますか?
A. 罰金はありません。ただし、税務署から「まだ個人事業が続いている」と見なされ、確定申告の催促や無申告の疑いをかけられる恐れがあります。
Q. 法人成りしたら、個人事業主は廃業しないとダメですか?
A. 法人成りしても、廃業届を提出しないケースはあります。例えば、不動産収入が個人の名義で残る場合や、一部の事業だけを法人に移す場合などです。
- 0.1.1. この記事で分かること
- 1. 法人成りの廃業届を提出するタイミングは?
- 2. 廃業日の決め方
- 2.1. 法人の設立日の前日:会計処理が楽になる
- 2.2. 12月31日:個人の確定申告がシンプルになる
- 2.3. 月の末日:締め日が管理しやすい
- 3. 個人事業主が廃業届を出さないとどうなる?
- 3.1. 罰則はないが税務署からお尋ねが届く可能性がある
- 3.2. 確定申告をしないと無申告を疑われる
- 4. 法人成りしても廃業届を提出しないケース
- 4.1. ケース1:不動産所得がある
- 4.2. ケース2:一部の事業を法人成りする
- 5. 廃業時に税務署に提出する書類リストと期限
- 5.1. 個人事業の開業・廃業等届出書
- 5.2. 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 5.3. 事業廃止届出書
- 5.4. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
- 5.5. 所得税等の予定納税額の減額申請書
- 6. 廃業時の確定申告の注意点
- 6.1. 資産の引き継ぎ方法を決める
- 6.2. 資産を法人に売却する場合は消費税の納税に注意する
- 6.3. 年の途中の廃業は減価償却費を月割り計算する
- 6.4. 貸倒引当金戻入で所得が増える
- 6.5. 事業税の見込み計上ができる
- 6.6. 青色申告特別控除は按分しない
- 6.7. 廃業前に税理士に相談する
- 7. まとめ
法人成りの廃業届を提出するタイミングは?
法人成りを予定している個人事業主の方が悩むのが、廃業届を提出するタイミングではないでしょうか。結論から言うと、廃業届は廃業した年分の所得税の確定申告期限までに提出すれば問題ありません。
例えば、2026年3月31日で個人事業を終了し、2026年4月1日に法人を設立した場合、個人事業としての所得は2026年1月1日から3月31日までです。そのため、2027年3月15日までに確定申告を行います。つまり、廃業届もその期限までに提出すればよいことになります。
ただし、本当に大切なのは、いつまでに出せるかよりも、どの日を廃業日にするかです。個人の売上と法人の売上が同じ月に混在すると、入金管理や請求書の名義、消費税区分などが複雑になります。月末など区切りのよい日で切り替えることで、移行期の処理が格段にラクになります。
単なる提出期限だけでなく、売上の流れや入金サイクルまで踏まえてタイミングを決めることが、手間を減らし、結果的に損をしない法人成りにつながりますよ。
参考:国税庁「廃業する場合」
廃業日の決め方
廃業届の提出期限だけを押さえていても、どの日を廃業日にするかで、その後の手間や税金に影響します。特に法人成りの移行期は、個人と法人の売上や経費が混ざりやすく、会計処理や入金管理が複雑になりがちです。
ここでは、実務でよく選ばれる代表的な3つのパターンについて解説します。
法人の設立日の前日:会計処理が楽になる
廃業日として最も分かりやすいのが、法人の設立日の前日にする方法です。例えば4月1日に法人を設立するなら、3月31日を個人事業の廃業日にします。
このように切れ目なくつなげることで、4月1日以降の売上はすべて法人、3月31日までの売上はすべて個人と明確に区分できます。空白期間がないため、請求書の名義や入金口座の管理もシンプルです。
移行期の混乱を防ぎたい人にとっては、もっとも実務的でラクな決め方といえるでしょう。ただし、月の途中を廃業日にすると、締め日の管理が大変になるため注意しましょう。
12月31日:個人の確定申告がシンプルになる
個人の確定申告は1月1日から12月31日までの所得をまとめて申告する仕組みなので、年末で終わらせれば計算期間が分かりやすくなります。一方で、年の途中で廃業した場合は、1月1日から廃業日までの所得について翌年に確定申告が必要です。
年の途中で切り替えると、個人と法人の数字を同じ年に並行して管理することになるため、事務負担はやや増えます。確定申告をできるだけシンプルにしたい人には、年末廃業がおすすめです。
月の末日:締め日が管理しやすい
売上や経費は月単位で管理しているケースが多く、月末で区切れば帳簿の締めがしやすくなります。逆に、月の途中で廃業すると、売上の計上日や請求の締め日によっては、どこまでが個人でどこからが法人かを細かく分ける必要が出てきます。
月末で区切れば、請求書・経費・通帳の動きも整理しやすく、移行期のストレスを減らすことが可能です。
副業を法人化するタイミングについては、以下の記事で詳しく解説しています。
個人事業主が廃業届を出さないとどうなる?
法人成りをするなら、「いつ出すか」だけでなく「出さないとどうなるか」も知っておくことが大切です。廃業届は小さな手続きに見えますが、放置すると後から思わぬ手間や疑念を招くことがあります。
ここでは、実際に起こり得る2つのリスクについて、分かりやすく解説します。
罰則はないが税務署からお尋ねが届く可能性がある
個人事業の廃業届を出さなかったからといって、罰則があるわけではありません。しかし、廃業の事実を税務署に伝えないまま放置していると、事業を続けているのではないかと判断される可能性があります。
例えば、これまで毎年確定申告をしていた方が、法人成りをして突然申告をしなくなるとしましょう。税務署は廃業を知らないため、確認の文書、いわゆる「お尋ね」が届くことがあります。
形式上は小さな手続きでも、出していないことで余計なやり取りが発生し、精神的な負担になるケースもあります。不要な誤解を避けるためにも、廃業した事実はきちんと届け出ておくことが大切です。
確定申告をしないと無申告を疑われる
廃業届を出さないまま確定申告も行わない状態が続くと、売上を隠しているのではないかと無申告を疑われるリスクがあります。
特に、法人を設立したあとも事業内容が個人時代とほぼ同じ場合、個人の収入なのか法人の売上なのかが外から見て分かりにくくなります。その結果、個人と法人の区別があいまいだと判断され、思わぬ確認や調査の対象になる可能性も否定できません。
法人成りはスタートが肝心です。個人の事業をきちんと区切り、法人へバトンを渡す形を明確にしておくことで、将来の税務リスクを防げます。
法人成りに不安がある場合は、木下博昭税理士事務所にご相談ください。
法人成りしても廃業届を提出しないケース
法人成りしても、必ずしも廃業届が必要なわけではありません。ここでは、法人成りしても廃業届を提出しない代表的な2つのパターンを解説します。
ケース1:不動産所得がある
法人成り後も、個人名義の不動産を所有し、家賃収入を得ている場合は注意が必要です。不動産所得は個人の所得として引き続き発生するため、事業を完全にやめたとはいえません。
例えば、これまで事業所得と不動産所得をあわせて確定申告していた方が、事業だけを法人に移したとします。不動産収入は引き続き個人の所得になるため、個人の確定申告は必要です。
自分の収入構造を整理し、何を法人へ移し、何を個人に残すのかを明確にすることが大切です。
ケース2:一部の事業を法人成りする
すべての事業を法人に移すのではなく、一部だけを法人化するケースもあります。例えば、飲食業と小売業をしているとします。
小売業だけを法人で行い、飲食業は個人で続ける場合、廃業届の提出は不要です。個人事業は完全に廃業したことにはならないため、廃業届を提出しないという選択になります。
ただし、個人と法人で同じような事業内容を行うと、売上や経費の区分があいまいになりやすく、税務上の説明が難しくなることがあります。また、法人成りすることで、手取りが減る恐れもあるため注意しましょう。
法人成りによる税金のシミュレーションについては、以下の記事で詳しく解説しています。
廃業時に税務署に提出する書類リストと期限
法人成りで個人事業を終えるときは、廃業届を出せば終わりというわけではありません。青色申告や消費税、源泉所得税、予定納税など、状況によって必要な手続きは変わります。
廃業時の手続きを適切にしておかないと、あとから余計な税金を払うことになったり、税務署から確認の連絡が届いたりする可能性もあります。
ここでは、廃業時に確認しておきたい代表的な書類と、期限について解説していきます。
| 書類 | 期限 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業の廃業の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限まで |
| 事業廃止届出書 | 事由が生じた場合速やかに |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内に |
| 所得税等の予定納税額の減額申請書 | 第1期分及び第2期分は、その年の7月1日から7月15日までに第2期分のみは、その年の11月1日から11月15日までに |
個人事業の開業・廃業等届出書
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、個人事業をやめた事実を税務署に知らせるためのものです。原則として、事業の廃業の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出します。
法人成りによって事業を法人へ移す場合は、「個人事業の開業・廃業等届出書」で個人事業の終了を明確にします。提出しなくても直ちに罰則があるわけではありませんが、出さないまま確定申告をしなくなると、税務署から確認の連絡が来る可能性があります。
移行期のトラブルを防ぐためにも、廃業日を決めたら速やかに提出しておくと安心しますよ。
参考:国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
所得税の青色申告の取りやめ届出書
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は、青色申告をしていた人が事業を廃止する場合に提出する書類です。
青色申告の承認は、事業を続けることが前提となっています。そのため、事業をやめるときは、取りやめの届出が必要になります。提出期限は、原則として青色申告を取りやめようとする年の確定申告期限までです。
法人成りで個人の事業所得がなくなる場合には、この手続きも忘れずに行いましょう。
参考:国税庁「所得税の青色申告の取りやめ手続」
事業廃止届出書
「事業廃止届出書」は、消費税の納税義務がある事業者が事業をやめるときに提出する書類です。提出期限は、事業を廃止した事実があった日から速やかにしましょう。特に、インボイス登録をしている場合は、登録の取り扱いも含めて整理が必要になります。
消費税は金額が大きくなりやすいため、廃業時の処理を誤ると後から修正が必要になることもあります。
参考:国税庁「事業廃止届出手続」
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」は、従業員や家族に給与を支払っていた場合に関係する書類です。原則として、廃止した日から1か月以内に提出します。
提出を忘れると、源泉所得税の納付義務が継続しているとみなされる可能性があります。法人へ切り替える場合は、個人の給与支払事務所をいったん終了させ、法人側で新たに開設届を出す流れになります。
参考:国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
所得税等の予定納税額の減額申請書
「所得税等の予定納税額の減額申請書」は、前年の所得が一定額を超えている場合、当年に予定納税の通知が届くことがあります。法人成りによって個人の所得が大きく減る見込みであれば、そのまま予定納税をすると払い過ぎになるかもしれません。
払い過ぎた税金は確定申告で還付されますが、一時的に手元の資金が減ります。しかし、所得税等の予定納税額の減額申請書を提出すると、予定納税の減額ができます。
提出期限は、第1期分及び第2期分はその年の7月1日から7月15日までに、第2期分のみはその年の11月1日から11月15日までです。
参考:国税庁「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続」
廃業時の確定申告の注意点
法人成りの準備に意識が向きがちですが、実は重要なのが、個人事業をどう終わらせるかです。あいまいにしたまま進めると、後から思わぬ税負担が発生したり、法人との数字が合わなくなったりすることもあります。
ここでは、廃業時の確定申告で特に注意したいポイントを確認していきましょう。
資産の引き継ぎ方法を決める
個人事業で使っていたパソコンや車、在庫などを法人へ引き継ぐ場合、引き継ぎ方によって税務上の扱いは変わります。主な方法は、譲渡(売却)・賃貸・現物出資・贈与です。
たとえば、個人から法人へ売却すれば、個人側に譲渡所得が発生する可能性があります。現物出資であれば、法人の資本金として扱われます。それぞれ税金の計算方法や手続きが異なるため、どの方法を選ぶかで最終的な税負担も変わります。
安易に名義だけを変えるのではなく、税務上どう扱われるかを理解したうえで決めることが重要です。
資産を法人に売却する場合は消費税の納税に注意する
個人事業主が課税事業者である場合、資産を法人へ売却すると、その売却代金に消費税がかかるケースがあります。
例えば、事業用の車や機械を法人に売却した場合、その取引は通常の課税取引と同じ扱いです。特に廃業年は売上が少なくても、資産売却によって一時的に課税売上が増えることもあります。
消費税の影響を事前に試算しておかないと、資金繰りに影響する可能性があるため注意が必要です。
年の途中の廃業は減価償却費を月割り計算する
年の途中で廃業する場合、減価償却費は1年分をそのまま計上することはできません。原則として、使用した月数に応じて月割りで計算します。
たとえば、6月末で廃業した場合は、1月から6月までの6か月分のみを必要経費として計上します。誤って1年分計上してしまうと、経費の過大計上となり修正や延滞税などが発生する可能性があるため注意しましょう。
貸倒引当金戻入で所得が増える
青色申告で貸倒引当金を計上していた場合、廃業時にはその残額を「戻入」する必要があります。戻入とは、過去に経費として計上していた引当金を収入に戻す処理のことです。
戻入処理によって、廃業年の所得が増える場合があります。廃業するからといって税金が軽くなるとは限らず、思ったより所得が大きくなるケースもあります。
引当金の残高があるかどうかを確認し、最終申告でどのような影響が出るのかを把握しておくことが大切です。
事業税の見込み計上ができる
個人事業税は、前年の所得などをもとに後から課税される税金です。廃業年の確定申告では見込み額を必要経費として計上できる場合があります。
見込み計上を行うことで、廃業年の所得をより実態に近い形で計算できますが、計算を誤ると修正が必要になります。専門的な判断が求められる部分です。
参考:国税庁「〔租税公課〕」
青色申告特別控除は按分しない
年の途中で廃業した場合でも、青色申告特別控除は月割りで按分するわけではありません。一定の要件を満たしていれば、原則として満額の控除を受けることができます。
例えば、帳簿付けや申告書の提出など、青色申告の条件をきちんと満たしていれば、廃業した年でも最高65万円の控除が適用されます。廃業したから控除額が減ると誤解している方も多いため、正しいルールを理解しておきましょう。
廃業前に税理士に相談する
廃業時の確定申告は、通常年よりも判断が複雑です。資産の引き継ぎ方法、消費税の扱い、引当金の戻入など、ひとつの選択で税額が変わることもあります。自己判断で進めると、後から修正申告が必要になったり、思わぬ税負担が発生したりするリスクがあります。
法人成りはスタートも重要ですが、終わらせ方も同じくらい大切です。不安がある場合は、廃業前の段階で木下博昭税理士事務所へご相談ください。最適な処理方法をご提案させていただきます。
まとめ
法人成りにおける廃業手続きは、廃業届を出せば終わりという単純なものではありません。廃業日の決め方ひとつで、個人と法人の売上管理の手間は変わります。また、資産の引き継ぎ方法によって、消費税の扱いや減価償却など最終的な税額も変わります。
特に移行期は、個人と法人の数字が混ざりやすいため注意が必要です。処理を誤ると後から修正や追加納税が必要になることもあります。一番ラクで損をしないタイミングは、人によって異なります。
法人成りをスムーズに進めたい方は、廃業前の段階で木下博昭税理士事務所へご相談ください。社長の状況に合わせて、最適なタイミングと手続きを具体的にご提案いたします。
投稿者プロフィール

- 税理士/南九州税理士会 139642
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熊本生まれ 熊本育ち
税理士の木下博昭です。税理士業界歴21年!
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これに特化した経営支援を行いたいと思い独立を決意。
令和元年、令和のスタートともに独立しました。
もちろん、税制を活用した節税も行います。
農業コンサルタント向けに税制改正や節税の講演も実施しています。
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