夫婦でマイクロ法人を作るメリット・デメリット

夫婦で個人事業をしている方や、どちらかが会社員・パートとして働いている方のなかには、「小さな会社を作ったほうが、税金や社会保険で有利になるのでは?」と考える方もいるでしょう。

マイクロ法人とは、1人や夫婦など、少人数で運営する小さな会社の通称です。

夫婦で会社を作ることはできます。ただし、会社を作れば必ず得になるわけではありません。夫婦それぞれの収入や仕事内容、社会保険、会社の維持費によって結果は変わります。

まずは、

  • 夫婦のどちらが会社で働くのか
  • 会社からいくら報酬を受け取るのか
  • 社会保険はどうなるのか
  • 会社を作らない場合と比べて手取りが増えるのか

を整理してから、設立するか判断しましょう。

夫婦のマイクロ法人についてよくある質問

夫婦で別々のマイクロ法人を作る必要はありますか?

夫婦が1社ずつ会社を作る必要はありません。たとえば、次のような形があります。

  • 1社を作り、夫婦ともに働く
  • 一方だけが役員になり、もう一方は会社で働かない
  • 一方が役員になり、もう一方が従業員として働く

法人は1人でも設立できます。

大切なのは、「夫婦で何社作るか」よりも、「どの仕事を会社で行い、誰がその仕事を担当するか」です。所得を分けるためだけに会社を増やすのではなく、実際の事業内容や役割に合った形を選びましょう。

会社員の配偶者もマイクロ法人の役員になれますか?

会社員でも、マイクロ法人の役員になることはできます。

ただし、先に勤務先の就業規則や副業のルールを確認しましょう。また、勤務先とマイクロ法人の両方で社会保険に入る場合は、両方から受け取る報酬をもとに保険料を計算する仕組みがあります。

その場合、「二以上事業所勤務」の手続きが必要になることがあります。

役員になる前に、

  • マイクロ法人でどの仕事をするか
  • いくら報酬を受け取るか
  • 勤務先で副業や役員就任が認められているか
  • 社会保険の手続きが必要か

を確認しましょう。

夫婦でマイクロ法人を作るメリット

夫婦でマイクロ法人を作ると、税金や社会保険の負担を見直せる場合があります。ただし、夫婦の収入や働き方によって効果は変わります。

夫婦の仕事に応じて給与を払い税金を抑えられる場合がある

夫婦がそれぞれ設立したマイクロ法人の仕事をしている場合は、その仕事に応じて会社から給与を支払えます。役員に支払う給与を「役員報酬」といいます。

夫婦それぞれが実際に仕事をして給与を受け取ることで、世帯全体の税負担が変わる場合があります。

ただし、夫婦だから自由に給与を分けられるわけではありません。実際の仕事内容や責任に合った金額にする必要があります。また、役員報酬を会社の経費として扱うためには、支払い方にもルールがあります。

参考:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

社会保険料の負担を抑えられる場合がある

現在、国民健康保険・国民年金に加入している場合、マイクロ法人を作ることで健康保険・厚生年金へ変わる場合があります。その結果、世帯全体の社会保険料が下がることがあります。

また、一方が会社の健康保険に入り、もう一方が扶養の条件を満たせば、扶養される配偶者には健康保険料の個別負担がありません。

ただし、「役員報酬を少なくすれば扶養に入れる」と単純に考えることはできません。本人が社会保険に入る必要があるか、ほかの収入がいくらあるかなども確認する必要があります。

また、社会保険料を比べるときは、個人が払う分だけではなく、会社が払う分も含めて考えましょう。

参考:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

夫婦でマイクロ法人を作るデメリット

マイクロ法人には、税金や社会保険を見直せる可能性がある一方で、会社を持つことで増える負担もあります。

設立費用と毎年の維持費がかかる

会社を作るときは、登記に必要な登録免許税などの費用がかかります。会社を作った後も、

  • 法人の税金
  • 法人の申告にかかる費用
  • 税理士へ依頼する場合の費用

などが発生します。さらに、法人は赤字でも、原則として法人住民税の均等割がかかります。

「税金や社会保険がいくら減るか」だけではなく、「会社を持つために毎年いくらかかるか」まで計算してから設立を判断しましょう。

法人設立後のランニングコストについては、以下もご確認ください。

合同会社は売上なしでもランニングコストがかかる?年間維持費用の内訳と目安

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個人事業も続けると経理や申告の手間が増える

マイクロ法人を作ったあとも個人事業を続ける場合は、法人と個人事業のお金を分けて管理します。

たとえば、

  • この売上は法人か、個人事業か
  • この経費は法人か、個人事業か
  • どの口座から支払ったか

を分けて記録する必要があります。

同じ経費を法人と個人事業の両方で計上することはできません。法人と個人事業の両方で使うものがある場合も、実際の使い方に合わせて分けます。

法人には法人の申告が必要です。個人事業を続ける場合は、夫婦それぞれについて確定申告が必要かも確認します。

個人事業の廃業については、以下の記事をご確認ください。

法人成りの廃業届を提出するタイミングは?出さないとどうなるか解説

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会社のお金を夫婦の生活費として自由には使えない

会社のお金と、夫婦個人のお金は別です。

会社の口座にお金が入っていても、自由に生活費として使えるわけではありません。生活費は、会社から受け取った役員報酬や給与などから支払うのが基本です。

会社が役員個人の買い物や生活費を負担すると、役員への給与として扱われる場合があります。また、会社の経費として認められないこともあります。

会社を作ったら、

  • 会社用の口座
  • 個人用の口座
  • 会社の支払い
  • 家庭の支払い

を分けて管理しましょう。

参考:国税庁「No.5202 役員等に対する経済的利益」

夫婦でマイクロ法人を作るときの役割の分け方

会社を作る前に、まず夫婦それぞれの役割を決めましょう。役員は会社の経営に関わる立場です。従業員は、決められた仕事を担当する立場です。

夫婦だからといって、必ず2人とも役員にする必要はありません。

形仕事・給与等社会保険の確認点
一方だけ役員役員になった人が会社を経営します。配偶者が会社で働かなければ、会社から給与は受け取れません。配偶者の勤務先や収入を確認し、扶養に入れるかなどを確認します。
夫婦とも役員夫婦それぞれが会社の経営や担当業務を行います。仕事内容に合った役員報酬を決めます。夫婦それぞれについて、社会保険に入る必要があるか確認します。
一方が役員、もう一方が従業員一方が経営を担当し、配偶者が決められた業務を行います。従業員の勤務時間や給与などから、社会保険の加入対象か確認します。

注意したいのは、名前だけ従業員にしても、実際には経営に関わっている場合です。仕事内容によっては、税務上は役員として扱われることがあります。

「どの肩書きにすれば得か」から考えるのではなく、まず実際の仕事内容を整理しましょう。

参考:日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」

参考:国税庁「No.5200 役員の範囲」

配偶者が社会保険の扶養に入れるか確認する

夫婦のどちらかを扶養に入れたい場合は、「年収がいくらか」だけで判断しないことが大切です。次の順番で確認しましょう。

まず配偶者自身が社会保険に入る必要があるか確認する

最初に確認するのは、配偶者本人が社会保険に入る必要があるかです。本人が社会保険の加入対象であれば、配偶者の扶養に入ることはできません。法人は、事業主だけで運営している場合も、原則として健康保険・厚生年金の適用事業所です。

ただし、「法人が社会保険の対象であること」と「夫婦2人とも加入すること」は同じではありません。夫婦それぞれについて、実際の仕事内容や報酬などから判断します。

そのため、「非常勤だから扶養に入れる」「役員報酬が少ないから扶養に入れる」とは限りません。

判断が難しい場合は、仕事内容や報酬の予定を整理して、社労士や年金事務所などに確認しましょう。

参考:日本年金機構「適用事業所と被保険者」

役員報酬だけでなくパート代や個人事業の収入も確認する

本人が社会保険へ入る必要がない場合は、次に扶養の収入条件を確認します。一般的な配偶者では、年間収入130万円未満が目安の1つです。60歳以上または一定の障害がある人は、180万円未満が目安になります。

ただし、確認するのは役員報酬だけではありません。たとえば、

  • パートや会社員としての給与
  • マイクロ法人からの報酬
  • 個人事業の収入
  • 年金

なども確認しましょう。

税金の配偶者控除と社会保険の扶養は条件が異なる

「税金の扶養」と「社会保険の扶養」は別の制度です。税金では、配偶者控除や配偶者特別控除があります。一方、社会保険では、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者といった制度があります。

それぞれ条件が違うため、「税金では配偶者控除を使えるから、社会保険でも扶養に入れる」とは限りません。

夫婦の役員報酬・給与を決めるときの注意点

夫婦の役割が決まったら、次に役員報酬や給与を考えます。「社会保険料を安くしたい」という理由だけで金額を決めるのではなく、仕事内容、生活費、会社に残すお金まで考えましょう。

仕事に見合った金額を決め働いた記録を残す

役員報酬や給与は、実際の仕事内容や責任に合った金額にします。たとえば、ほとんど仕事をしていない配偶者へ高額な給与を支払えば、税務上問題になる可能性があります。

反対に、実際に仕事をしているのであれば、

  • どの仕事を担当しているか
  • どのくらい働いているか
  • いくら支払っているか
  • なぜその金額にしたか

を説明できるようにしておきましょう。勤務記録などを残しておくと、仕事内容や給与額を確認しやすくなります。

役員報酬を経費にするには金額や支払い方にルールがある

役員報酬は、自由に金額を変えられるわけではありません。会社の経費として扱うためには、「定期同額給与」などのルールを満たす必要があります。

定期同額給与とは、簡単にいえば、毎月決めた金額を継続して支払う方法です。たとえば、「今月は利益が多かったので30万円」「来月は利益が少なそうなので10万円」というように自由に変更すると、一部または全部を会社の経費にできなくなる可能性があります。

役員報酬を変更できる時期にもルールがあります。会社を設立するときや、新しい事業年度が始まるときは、早めに金額を決めましょう。

生活費や将来の年金も考えて報酬を決める

役員報酬は、社会保険料だけを見て決めないことが大切です。報酬を低くすれば、今の社会保険料を抑えられる場合があります。一方で、毎月の生活費に使えるお金が少なくなったり、将来受け取る厚生年金の金額に影響したりする可能性があります。

そのため、

  • 毎月いくら生活費が必要か
  • 会社にいくら残したいか
  • 税金と社会保険料はいくらになるか
  • 将来の年金にどう影響するか

をまとめて考えましょう。

役員報酬については、以下の記事もご確認ください。

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設立前に夫婦の手取りと会社に残るお金を比べる

ここまで確認したら、最後に「会社を作る場合」と「今のまま続ける場合」を比べます。見るべきなのは、税金だけではありません。

夫婦の手取り、社会保険料、会社の維持費、会社に残るお金まで含めて比べましょう。

比べる項目今の形を続ける場合法人を設立する場合
夫婦の税金個人事業や給与など、夫婦それぞれの所得から確認します。役員報酬や給与を受け取った夫婦それぞれの税金を確認します。
夫婦の社会保険料現在の国民健康保険・国民年金、勤務先の社会保険などを確認します。夫婦それぞれが加入するのか、一方が扶養に入るのかを確認します。
会社側の負担法人がなければ発生しません。法人の税金や会社負担の社会保険料などが発生します。
経理・申告の費用個人事業の経理や確定申告にかかる費用を確認します。法人の経理・申告費用が増えます。個人事業も続ける場合は両方必要です。
生活費に使えるお金個人の収入から税金・保険料などを引いて確認します。役員報酬や給与から税金・保険料などを引いて確認します。
事業に残るお金個人事業に残る資金を確認します。法人に残る資金を確認します。

注意したいのは、会社から夫婦へ支払う役員報酬です。会社から見れば支出ですが、夫婦から見れば収入です。

設立前に、少なくとも次の資料を用意すると比較しやすくなります。

  • 夫婦それぞれの年間収入・所得が分かる資料
  • 現在加入している健康保険・年金の内容
  • 法人で行う予定の事業と利益の見込み
  • 毎月必要な生活費
  • 法人で夫婦それぞれが行う仕事
  • 予定している役員報酬・給与
  • 会社設立後にかかる毎年の費用

これらをもとに、「年間で夫婦の手元にいくら残るか」を比べてから、法人を作るか判断しましょう。

まとめ

夫婦でマイクロ法人を作ると、仕事内容に応じて夫婦へ給与を支払ったり、社会保険の負担を見直したりできる場合があります。一方で、会社を作れば、設立費用や毎年の維持費がかかります。法人の経理や申告も必要になり、会社のお金を生活費として自由に使うこともできません。

設立を考えている場合は、次の順番で整理しましょう。

  1. 法人で行う仕事を決める
  2. 夫婦それぞれの役割を決める
  3. 社会保険への加入や扶養を確認する
  4. 役員報酬・給与を決める
  5. 今のままの場合と法人を作る場合の手取りを比べる

特に、夫婦の収入源が複数ある場合は、税金と社会保険を別々に考えるだけでは判断しにくくなります。夫婦の収入、役員報酬、社会保険料、会社に残すお金まで並べて比較してから、設立するか決めることが大切です。

投稿者プロフィール

木下博昭
木下博昭税理士/南九州税理士会 139642
熊本生まれ 熊本育ち
税理士の木下博昭です。税理士業界歴21年!
節税や補助金、創業融資などを利用して、会社にお金を残す!
これに特化した経営支援を行いたいと思い独立を決意。
令和元年、令和のスタートともに独立しました。
もちろん、税制を活用した節税も行います。
農業コンサルタント向けに税制改正や節税の講演も実施しています。
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