
「夫婦なら、名義もお金も後で考えればいい」そんな無責任な言葉に振り回されていませんか。
実際は売上づくりも経営判断も半分ずつなのに、収入は夫に集まり妻の頑張りは数字に残らないケースは珍しくありません。税金や社会保険の負担だけでなく、もしものときに事業も生活も揺らぐのではないかと、不安になることもありますよね。
この記事では、夫婦の仕事と生活を守りながら、お互いが納得する共同経営の方法について解説します。
この記事で分かること
- 個人事業主夫婦の働き方スタイルの見つけ方
- 妻の仕事を手伝いで終わらせず、収入や決定権にきちんと反映する考え方
- 夫婦経営を破綻させないためのルール作り
Q. 個人事業主の夫婦は、妻を青色専従者にする方法がベストですか?
A. 有力な選択肢の一つですが、それだけが正解ではありません。
妻が別の仕事をしている、二人がそれぞれ顧客対応や経営判断をしている場合は、別の形が合うこともあります。青色専従者には事業に専従するなどの条件があるため、仕事をしていないのに給料を払うのは危険です。
Q. 夫婦それぞれ個人事業主になれば、売上を半分ずつにできますか?
A. いいえ、名義だけを分ける方法は避けるべきです。仕事の内容や契約、売上の流れなど、それぞれが独立した事業形態であることが必要です。
Q. 法人化すれば、夫婦で公平にお金を受け取れますか?
A. はい、可能です。ただし、公平とは「夫婦でまったく同じ金額を受け取ること」ではありません。営業、現場管理、経理、採用、資金繰りなど、二人が担う役割と責任に応じて、役員報酬を決めることが大切です。
- 0.1.1. この記事で分かること
- 1. 夫婦が事業を営む代表的な3つのスタイル
- 2. スタイル1:夫婦の一方が個人事業主、もう一方が青色専従者になる
- 2.1. メリット:配偶者の給与を経費にできる
- 2.1.1. 青色専従者給与の主な要件
- 2.2. デメリット1:配偶者控除が活用できない
- 2.3. デメリット2:パート・副業との両立では、専従者の要件を満たせないことがある
- 3. スタイル2:夫婦それぞれが独立した個人事業主になる
- 3.1. メリット:お互いに決定権があり青色申告特別控除を双方が使える
- 3.2. デメリット1:独立した事業実態がなければ所得分散を否認される恐れがある
- 3.3. デメリット2:申告や事務負担の手間が増える
- 3.4. デメリット3:どちらか一方の赤字を夫婦間で相殺できない
- 4. スタイル3:法人化して夫婦で役員報酬を受け取る
- 4.1. メリット:それぞれの役割に応じて役員報酬を設計できる
- 4.2. デメリット:ランニングコストと事務負担が増える
- 5. どのスタイルが向いている?
- 5.1. スタイル1が向いているケース
- 5.1.1. スタイル1が向いているケース
- 5.2. スタイル2が向いているケース
- 5.2.1. スタイル2が向いているケース
- 5.3. スタイル3が向いているケース
- 5.3.1. スタイル3が向いているケース
- 6. 夫婦経営を破綻させないお金と経営のルール作りのポイント
- 6.1. 役割と権限を決める
- 6.1.1. 決めるリスト例
- 6.2. 労働時間と休日を決める
- 6.3. 生活費と事業資金を明確に分ける
- 6.4. 意見が対立したときの話し合い方を決める
- 6.5. 迷ったら第三者の税理士を相談役として頼る
- 7. まとめ
- 7.1.1. 共同経営のスタイル
夫婦が事業を営む代表的な3つのスタイル
夫婦が事業を営む代表的なスタイルは、以下の3つが挙げられます。
| スタイル | 特徴 | 向いている夫婦 |
|---|---|---|
| 一方が個人事業主、もう一方が青色専従者 | 一人が個人事業主となり、配偶者へ給与を支払う形 | 事業を二つに分けるより、共同で一つの事業を安定させたい |
| 夫婦それぞれが独立した個人事業主 | 夫婦それぞれに決定権があり、お互い確定申告が必要 | 二人に異なるサービス内容や専門分野がある |
| 法人化して夫婦で役員になる | 会社を作り、夫婦それぞれが役員として報酬を受け取る | 二人の役割に応じて、報酬を明確にしたい |
大切なのは、税金だけで形を決めることではありません。二人が何を担い、誰が決め、いくら収入を受け取るのかを、実際の働き方に合わせて整えることです。
スタイル1:夫婦の一方が個人事業主、もう一方が青色専従者になる
一方が代表として営業や顧客対応を担い、もう一方がサポートするなら、青色専従者を活用しやすいです。ただし、「夫婦だから給与を出せる」わけではありません。仕事内容、勤務の実態、給与額までそろって初めて、正当な給料として経費にできます。
メリット:配偶者の給与を経費にできる
青色申告をしている個人事業主は、条件を満たせば、事業を手伝う配偶者へ支払った給与を必要経費にできます。
青色専従者給与の主な要件
- 妻が事業に専ら従事していること
- 事前に届出を出すこと
- 仕事内容に見合う給与を実際に支払うこと
年末に帳簿上だけで給与を作るのではなく、毎月実際に支払うことが重要です。まずは、お互いが毎月どんな仕事をしているのかを書き出すところから始めましょう。
参考:国税庁「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
デメリット1:配偶者控除が活用できない
青色専従者として給与を受け取る配偶者は、配偶者控除の対象にはなれません。控除がなくなることだけを見ると損に感じますが、比べるべきなのは控除額ではなく、夫婦全体でいくら手元に残るかです。
例えば、毎日事業を支えている妻が、控除を残すためだけに無給で働き続ければ、「自分は何のために頑張っているのだろう」という不満につながりかねません。一方で、利益がまだ安定しない時期に高すぎる給与を決めると、資金繰りが苦しくなります。
税金だけで決めず、二人の生活費と事業資金を並べて、無理のない給与額を考えましょう。
参考:国税庁「配偶者控除」
デメリット2:パート・副業との両立では、専従者の要件を満たせないことがある
青色専従者の要件を満たすには、原則として1年のうち6か月を超える期間、その事業に専ら従事している必要があります。外で継続的にパートや副業をしていて、夫の事業に関わる時間が限られる場合は、専従者としての要件を満たさない恐れがあります。
実際にどの仕事へどれだけ時間を使っているのかが大切です。パートや副業を続けたいなら、無理に専従者にする必要はありません。別々の事業にする、将来的に法人化を検討するなど、働き方に合った形を選んだほうがよいでしょう。
スタイル2:夫婦それぞれが独立した個人事業主になる
夫婦それぞれが自分の判断で事業をしたい場合、二人とも個人事業主になる方法があります。ただし、どちらかの事業を帳簿上だけ半分に分ける方法ではありません。誰が契約し、誰がサービスを提供し、誰が売上を受け取るのかまで、それぞれの事業として説明できる状態が必要です。
メリット:お互いに決定権があり青色申告特別控除を双方が使える
夫婦それぞれが独立した個人事業主なら、二人とも自分の判断で仕事を進められます。また、それぞれが青色申告の要件を満たせば、青色申告特別控除の活用もできます。帳簿を整え、期限内に申告する手間はありますが、最大65万円の控除を二人とも受けられるのは大きなメリットと言えます。
参考:国税庁「青色申告特別控除」
デメリット1:独立した事業実態がなければ所得分散を否認される恐れがある
夫婦それぞれが個人事業主として活動していても、実際には夫だけが経営判断し、妻は請求書を出すだけという状態もあるでしょう。しかし、この状態は、別々の事業として説明するのは難しくなります。税務上は、名義だけでなく、実際に誰がその事業を経営しているのかが見られます。
特に家族の場合、所得分散を疑われる恐れがあります。夫婦それぞれが独立した個人事業主になる場合、独立した事業実態になっているか確認しましょう。
参考:国税庁「法第12条《実質所得者課税の原則》関係」
デメリット2:申告や事務負担の手間が増える
個人事業主が二人になれば、帳簿作成、領収書、請求書、確定申告なども二人分になります。事務作業が増え、夜中に夫婦でレシート整理をしているという状態になる可能性があります。
事業を分けるなら、お金の入口と出口も分けることが基本です。専用口座、専用カード、請求書の名義を整えることで、確定申告前の混乱を減らせます。
デメリット3:どちらか一方の赤字を夫婦間で相殺できない
損益通算は、あくまで一人の納税者の中で行う仕組みです。夫婦だからといって、二人の利益と赤字を一つにまとめることはできません。事業を分ける前に、黒字・赤字の見込みを数年分シミュレーションして確認しましょう。
夫婦別々の個人事業主が本当に合うのか、見落としやすいデメリットや事業形態については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
参考:国税庁「損益通算」
スタイル3:法人化して夫婦で役員報酬を受け取る
法人化は、実質的に共同経営者である夫婦に向いているでしょう。ただし、法人化するだけで節税対策になるわけではありません。
メリット:それぞれの役割に応じて役員報酬を設計できる
法人は、夫婦それぞれを役員にして、実際の役割や責任に応じた役員報酬を受け取ることができます。
ただし、役員報酬は「今月は売上が多いから増やそう」と気軽に変更できるものではありません。原則として毎月同額で支払うなど、会社の経費として認められるためのルールがあります。
役員報酬を決める差異は、利益予測と生活費をシミュレーションして決めることが大切です。
デメリット:ランニングコストと事務負担が増える
法人化して役員報酬を受け取ると、社会保険料の負担と社会保険の事務負担が増えます。また、赤字であっても発生する均等割のランニングコストも増えます。法人の確定申告は、個人の確定申告に比べて複雑なため、税理士に依頼することが一般的です。
法人化することで、社会保険料、均等割、税理士費用のランニングコストがかかると考えておいた方がいいでしょう。
「会社を作れば何とかなる」と思って始めると、売上が少ない時期ほど固定費や手続きの負担が重く感じます。法人化した後にどんなランニングコストがかかるのか、会社を維持できるか不安な方は、こちらの記事で年間維持費用の目安をご確認ください。
どのスタイルが向いている?
夫婦の共同経営に、一番得する正解はありません。夫が代表だからスタイル1、税金対策したいから法人化、と単純に決めると後悔する恐れがあります。
ここでは、各スタイルごとに、向いているケースをご紹介します。
スタイル1が向いているケース
夫婦の仕事が一つの事業にまとまっており、最終的な経営判断を主に一人が担っているなら、スタイル1の青色専従者の形が向いているでしょう。例えば以下のケースが挙げられます。
スタイル1が向いているケース
- 配偶者が他に仕事をしておらず、事業に専念できる
- 外部の人材を雇う前に、まずは身内で事業基盤を固めたい
- 事務負担を極力少なくしたい
- 利益が安定していない
専従者給与は、勤務実態や届出、給与額の妥当性などの要件を満たす必要があります。感覚で決めず、仕事の内容と支払いの記録を残すところから始めましょう。
スタイル2が向いているケース
夫婦がそれぞれ自分の専門性と顧客を持ち、独立して売上をつくれているなら、別々の個人事業主として進めるスタイル2が向いているでしょう。例えば以下のケースが挙げられます。
スタイル2が向いているケース
- 二人に異なるサービス内容や専門分野がある
- 夫婦それぞれが自分の判断で仕事を受けたり断ったりしている
- 二人分の帳簿や申告書の作成が負担にならない
ただし、名義だけを分ける方法は、税務上のリスクがあります。誰が仕事を受け、誰が提供し、誰が売上を受け取るのかをしっかりと管理しましょう。
スタイル3が向いているケース
利益が安定し、夫婦それぞれが仕事に応じた報酬を受け取りたい場合は、スタイル3の法人化が向いているでしょう。例えば以下のケースが挙げられます。
スタイル3が向いているケース
- 売上や利益が安定し、社会保険や事務負担を含めても会社を維持できる
- 将来の相続対策も考えている
- 事業承継をスムーズにしたい
- 家計と事業のお金をきちんと分けたい
ただし法人化は、夫婦の働き方を具体的にできる一方、報酬の決め方や出資割合を誤ると将来のトラブルの原因にもなります。法人設立前から、しっかりと対策することが重要です。
夫婦経営を破綻させないお金と経営のルール作りのポイント
夫婦経営を難しくするのは、意見の違いだけではありません。「言わなくても分かるはず」と思い込み、役割やお金、休み、決め方を曖昧にしたまま続けることです。
仕事では社長と共同経営者、家では夫婦、二つの関係が混ざるからこそ、ルールは二人を守るための約束になります。関係が良い今のうちに決めておくことで、忙しい時期や予想外の出来事が起きても解決のきっかけになるでしょう。
役割と権限を決める
「二人で決める」は聞こえは良いものの、毎回すべてを相談していると判断が遅れ、どちらかが我慢し続ける形になりがちです。
決めるリスト例
- 営業
- 採用
- 価格決定
- 経理
- 借入や設備投資
など、誰が最終判断をするのかを決めることが大切です。
例えば、夫が取引先に「この金額なら受ける」と約束し、妻が収支を考え「その金額では苦しい」と感じる状態では仕事の遅れにつながります。月いくらまでの値引きは営業担当が決める、借入や大きな設備投資は必ず二人で決めるなど、役割と権限を決めると判断しやすくなります。
労働時間と休日を決める
夫婦経営では、仕事が終わっても家庭で会議が続きやすくなります。食事中も売上の話、休日も取引先からの連絡、寝る前まで経費の話では、事業は続いても夫婦の心がすり減ります。
例えば、日曜日の夕食で夫が翌週の売上の話を始め、妻が「今は家族の時間にしたい」と黙り込む。この小さなすれ違いを放置すると、仕事の相談すら重くなります。
仕事とプライベートを区別するためにも、仕事の相談をする曜日や時間、連絡が必要な緊急時の基準など、必ず休む日を決めましょう。休むことも、事業を長く続けるための仕事です。
生活費と事業資金を明確に分ける
生活費と事業資金が混在している状態では
- 利益が出ているのか
- 税金を払えるのか
- 来月の仕入れに足りるのか
が分からなくなります。売上が増えているのに不安が消えない夫婦は、お金の入口と出口が混ざっていることが少なくありません。
夫が仕入れの支払いに使う口座から、妻が子どもの習い事代を引き出すこともあるでしょう。しかし、この状態が続くと月末に事業資金が足りなくなる恐れがあります。
これは浪費の問題ではなく、財布が混ざっていることが問題です。事業用の口座とカードを分け、生活費は毎月決めた額を家計へ移す形にしてください。事業のお金を守ることが、生活の安心にもつながります。
意見が対立したときの話し合い方を決める
意見がぶつかることは、共同経営では珍しいことではありません。ただし、感情が高ぶったまま「あなたは分かっていない」と言い合うと、正しい判断が難しくなります。対立したときほど、誰が悪いかではなく、何を守りたいのかへ話を戻す必要があります。
- 出資比率に応じた議決権できめる
- 設備投資は夫、採用は妻など役割で最終決定者を決めておく
- 特定事項は全員一致にする
など、意見が対立したときの話し合い方を決めておきましょう。毎月一度、数字だけを見る経営会議の時間をつくり、議題、決める人、持ち帰る条件を決めるのも効果的です。
迷ったら第三者の税理士を相談役として頼る
夫婦だけで話していると、昔の不満や家事、育児の負担などまで混ざり、目の前の問題を冷静に判断できなくなります。そんなとき、第三者である税理士に相談すると、感情の対立だったものが報酬の決め方、法人化の時期という話に戻せます。
税理士は夫婦関係の答えを決める存在ではありません。しかし、生活費、納税額、役員報酬、借入、利益の見通しを数字で示せば、二人が同じ資料を見て話し合えるようになります。
「申告はしてくれるけれど、夫婦の報酬やお金の分け方までは相談できない」と感じている方もいるでしょう。今の税理士との付き合い方に不満がある方は、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
夫婦の共同経営のスタイルは、以下の3つが挙げられます。
共同経営のスタイル
- 一方が個人事業主、もう一方が青色専従者
- 夫婦それぞれが独立した個人事業主
- 法人化して夫婦で役員になる
共同経営のスタイルも大切ですが、
- 役割
- 決定権
- 生活費
- 意見が対立したときの話し合い方
などを決めることも重要です。今はうまく回っていても、決まっていないルールは、忙しい時期や非常時にすれ違いを生みやすくなります。
「私たちの場合はどの形が合うのか」と感じている方は、木下博昭税理士事務所へご相談ください。二人の働き方と将来の不安に寄り添いながら、手元にお金と安心を残せる形を一緒に考えさせていただきます。
投稿者プロフィール

- 税理士/南九州税理士会 139642
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熊本生まれ 熊本育ち
税理士の木下博昭です。税理士業界歴21年!
節税や補助金、創業融資などを利用して、会社にお金を残す!
これに特化した経営支援を行いたいと思い独立を決意。
令和元年、令和のスタートともに独立しました。
もちろん、税制を活用した節税も行います。
農業コンサルタント向けに税制改正や節税の講演も実施しています。
何かご相談があればお気軽にどうぞ!
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