
事業を始めるとき、「株式会社にすると何がよいのか」「合同会社や個人事業ではだめなのか」と迷う方は少なくありません。
株式会社には、取引先や求職者から信用を得やすい傾向があります。株式を使って外部から出資を受けたり、会社の持ち主と経営する人を分けたりできる点もメリットと言えます。また、株主の責任は原則として出資額までに限られ、個人事業より税務上の選択肢が増えるほか、株式を使った事業承継も検討できます。
一方、株式会社は合同会社より設立時の法定費用が高く、取締役の任期が満了したときは、同じ人が続ける場合でも再任などの登記手続が必要です。原則として毎期、決算公告も行わなければなりません。また、株式会社を作っただけで、信用・資金調達・節税の効果が自動的に得られるわけではありません。
この記事では、株式会社のメリットとデメリットを、合同会社・個人事業との違いを交えながらわかりやすく解説します。制度上「できること」だけでなく、その仕組みを実際に使う予定があるか、設立後に会社と個人へいくら残るかまで比べ、自分に合う事業形態を考えていきましょう。
株式会社のメリットに関するよくある質問
Q. 株式会社の主なメリットは何ですか?
A. 株式会社の主なメリットは、次の6つです。
- 取引先や求職者から信用を得やすい傾向がある
- 株式を発行して外部から出資を受けられる
- 株主と取締役を分けられる
- 株主の責任が原則として出資額までに限られる
- 個人事業主と比べて税務上の選択肢が増える
- 株式を使った事業承継を検討できる
ただし、有限責任は合同会社にもある仕組みです。また、株式会社を設立すれば、信用・出資・節税といった効果が自動的に得られるわけではありません。
Q.合同会社からあとで株式会社へ変更できますか?
A. 合同会社から株式会社へ変更することは可能です。会社法上は「組織変更」と呼ばれ、同じ会社を続けながら会社の形を変える手続です。
会社の状況によって必要書類や税務上の確認事項が変わるため、実際に変更するときは法務局、司法書士、税理士などへ事前に確認しましょう。
Q. 株式会社にすると必ず節税になりますか?
いいえ。株式会社にしても、必ず節税になるとは限りません。
法人化すると税金の計算方法や役員給与の扱いが変わる一方、社会保険料の会社負担、法人住民税の均等割、決算・申告費用などが増える場合があります。会社と個人に最終的に残るお金を比べて判断しましょう。
詳しくは、以下の記事もあわせてご確認ください。
- 1. 株式会社のメリットに関するよくある質問
- 1.1. Q. 株式会社の主なメリットは何ですか?
- 1.2. Q.合同会社からあとで株式会社へ変更できますか?
- 1.3. Q. 株式会社にすると必ず節税になりますか?
- 2. 株式会社のメリットをわかりやすく解説
- 2.1. 取引先や求職者から信用を得やすい傾向がある
- 2.2. 株式を発行して外部から出資を受けることができる
- 2.3. 株主と取締役を分けることができる
- 2.4. 株主として負う責任は原則として出資額までに限られる
- 2.5. 個人事業主と比べて税務上の選択肢が増える
- 2.6. 事業承継の方法を設計しやすい
- 3. 株式会社のデメリットと注意点
- 3.1. 合同会社より設立時の法定費用が高い
- 3.2. 同じ人が取締役になる場合でも任期満了時に登記が必要になる
- 3.3. 原則として毎期、決算公告を行う義務がある
- 4. 株式会社・合同会社・個人事業の違いと選び方
- 4.1. 株式による外部出資や事業承継を重視する人は株式会社が候補
- 4.2. 少人数で設立・運営の負担を抑えたい人は合同会社が候補
- 4.3. まず小さく始めたい人は個人事業が候補
- 4.4. 税金だけでなく社会保険と手元資金まで比べて選ぶ
- 5. 事業形態で迷うときに税理士へ相談できること
- 6. まとめ
株式会社のメリットをわかりやすく解説
ここからは、株式会社の6つのメリットを詳しく見ていきます。株式会社だけにある特徴と、合同会社にも共通する特徴を分けて理解することが大切です。
取引先や求職者から信用を得やすい傾向がある
株式会社は、日本で広く知られている会社の形です。会社名、本店所在地、資本金、役員などの基本情報が登記されるため、取引を始める相手も会社の存在を確認できます。
合同会社より株式会社の名称になじみがある人も多いため、取引先や求職者に安心感を持ってもらいやすい場合があります。採用や新規取引で、会社の形が判断材料の一つになることもあるでしょう。
ただし、株式会社であること自体が信用を保証するわけではありません。実際の取引、融資、採用では、次のような点も判断材料になります。
- どのような事業を行っているか
- 過去にどのような実績があるか
- 売上や利益、借入金などの財務状況はどうか
- 約束した仕事や支払いを守っているか
- 代表者や従業員に必要な経験があるか
株式会社という看板は、信用を得るきっかけにはなっても、信用そのものではありません。設立後の実績を積み重ねることが何より重要です。
株式を発行して外部から出資を受けることができる
株式会社は、新たに株式を発行し、その株式を引き受ける人や会社から出資を受けられます。
銀行などからの借入れは、原則として決められた期限までに元本を返し、利息も支払います。一方、出資で受け入れたお金は、借入金のように毎月返済するものではありません。そのため、大きな設備投資や新しい事業に取り組むための資金を集める方法の一つになります。
ただし、出資を受けることには注意点もあります。株式を持つ人は株主となり、保有する株式の内容に応じて、株主総会で議決権を行使したり、配当を受けたりする権利を持ちます。
新しい株主が増えると、創業者が持つ株式の割合が下がり、経営に対する発言力が弱くなることもあります。「返さなくてよいお金がもらえる」という単純な仕組みではありません。資金と引き換えに、会社の一部を持ってもらう仕組みだと理解しておきましょう。
株主と取締役を分けることができる
株式会社では、会社の持ち主である「株主」と、会社を経営する「取締役」を分けられます。
株主は、会社へ出資して株式を持つ人です。取締役は、会社の経営を担う人です。株主総会で取締役を選ぶ仕組みがあるため、次のような形を作れます。
- お金は出すが、日々の経営には参加しない株主
- 株式はあまり持っていないが、経営を任される取締役
- 親が株主として会社を持ち、子が取締役として経営する会社
- 投資家から出資を受け、専門家を経営者として迎える会社
一方、一人で株式会社を設立する場合は、同じ人が株主と取締役を兼ねることもできます。小さな会社だから株主と取締役を必ず分けなければならないわけではありません。
現在は一人で経営していても、将来、出資する人と経営する人を分けられることが、株式会社の強みです。
株主として負う責任は原則として出資額までに限られる
株式会社の株主は、原則として出資額を上限に責任を負います。この仕組みを「有限責任」といいます。
例えば、株主が会社へ100万円を出資し、その会社が事業に失敗して1,000万円の借金を返せなくなったとします。株主は出資した100万円を失う可能性がありますが、株主であるという理由だけで、残りの借金まで個人のお金から支払う責任を負うわけではありません。
ただし、次のような場合は別です。
- 会社の借入れについて、代表者個人が連帯保証をしている
- 取締役が法令や任務に違反し、会社や第三者に損害を与えた
- 株主とは別の立場で、個人として契約上の責任を負っている
有限責任とは、「会社に何が起きても経営者個人は絶対に責任を負わない」という意味ではありません。また、合同会社の社員も原則として有限責任であるため、株式会社だけのメリットではない点にも注意しましょう。
個人事業主と比べて税務上の選択肢が増える
個人事業では、事業主本人と事業は法律上、別の人ではありません。そのため、事業主が事業のお金から生活費を受け取っても、自分自身への給与として必要経費にすることはできません。
株式会社は、代表者個人とは別の法人です。会社から代表者へ役員給与を支給し、税法上の要件を満たせば、法人税を計算するときの経費にあたる「損金」へ算入できます。会社に利益を残すのか、役員給与として個人へ支払うのかを考えられるため、個人事業より選択肢が増えます。
個人事業主と法人化後の手取りについては、以下の記事で詳しく解説しています。
参考:国税庁「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
事業承継の方法を設計しやすい
株式会社では、株式を後継者へ移すことで、会社の経営権を引き継ぐことができます。後継者は、親族だけとは限りません。従業員や社外の第三者へ株式を譲渡する方法もあります。
株式を譲渡しても、会社そのものが別の法人へ変わるわけではありません。事業で使う資産や契約は原則として会社が持ったままなので、個人事業に比べると、事業の土台を残したまま経営者を交代しやすいと言えます。
株式会社のデメリットと注意点
株式会社には、信用や資金調達の面でメリットがある一方、設立後まで続く負担があります。設立前に知っておきたい3つの注意点を見ていきましょう。
合同会社より設立時の法定費用が高い
株式会社は、合同会社より設立時の法定費用が高くなります。法定費用とは、会社を作る手続で国や公証人へ支払う費用です。主な違いは、登録免許税と定款認証です。
| 主な法定費用 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の0.7%。計算額が15万円未満なら15万円 | 資本金の0.7%。計算額が6万円未満なら6万円 |
| 定款認証手数料 | 1万5,000円・3万円・4万円・5万円のいずれか | 定款認証がないため不要 |
| 紙の定款にかかる印紙税 | 原則4万円 | 原則4万円 |
| 電子定款にかかる印紙税 | 不要 | 不要 |
このほか、定款の謄本代、印鑑の作成費用、証明書の取得費用、専門家へ依頼する場合の報酬などがかかります。
なお、資本金は国や専門家へ支払ってなくなる費用ではありません。会社を設立した後は、仕入れ、家賃、広告費など、事業に必要な支払いへ使える会社のお金です。設立費用と資本金を分けて考えましょう。
会社設立費用の目安については、以下の記事で詳しく解説しています。
参考:日本公証人連合会「会社の定款手数料の改定」
参考:国税庁「印紙税額の一覧表」
同じ人が取締役になる場合でも任期満了時に登記が必要になる
株式会社の取締役には任期があります。一般的な株式会社では、取締役の任期はおおむね2年です。ただし、すべての株式に譲渡制限がある株式会社など、取締役の任期を最長10年まで延ばすことができます。
任期が終わったときは、同じ人が引き続き取締役になる場合でも、株主総会などで再び選び、法務局で登記を行います。人が変わらないから手続が不要になるわけではありません。
任期を長くすると登記の回数は減りますが、登記の時期を忘れるリスクもあります。会社を作るときに任期を決め、決算月とあわせて次の登記時期を管理しておくことが大切です。
原則として毎期、決算公告を行う義務がある
株式会社は、原則として定時株主総会が終わった後、貸借対照表などを公告しなければなりません。これを「決算公告」といいます。決算公告は、税務署へ法人税の申告書を出すこととは別の手続です。税務申告を済ませたからといって、決算公告を行ったことにはなりません。
合同会社と個人事業には、株式会社と同じ毎期の決算公告義務はありません。そのため、公告の手間や費用を抑えたい場合は、合同会社を選ぶ理由の一つになります。
株式会社・合同会社・個人事業の違いと選び方
株式会社・合同会社・個人事業の主な違いは、以下の通りです。
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 | 個人事業 |
|---|---|---|---|
| 設立時の法定費用 | 登録免許税は最低15万円。定款認証手数料なども必要 | 登録免許税は最低6万円。定款認証は不要 | 法人設立の登録免許税や定款認証手数料は不要 |
| 出資者の責任 | 株主は原則として出資額まで | 社員は原則として出資額まで | 事業上の債務を事業主個人が負う |
| 所有者と経営者の関係 | 株主と取締役を分けられる。兼ねることもできる | 出資者である社員が経営するのが原則。定款で業務を行う社員を決められる | 事業主本人が所有し、経営する |
| 役員の任期 | 取締役に任期がある。一定の会社は定款で最長10年まで延ばせる | 株式会社の取締役のような法定任期は原則としてない | 役員制度がない |
| 社会保険 | 法人事業所は原則として強制適用。代表者一人の会社も対象になり得る | 株式会社と同じ | 常時5人以上の従業員が働く一定の事業所は原則として強制適用。業種による例外がある |
| 経理・申告の負担 | 法人の決算書、法人税・地方税の申告などが必要 | 株式会社とほぼ同じ法人の決算・申告が必要 | 記帳と所得税の確定申告などが必要。通常は法人より手続が少ない |
合同会社の「社員」は、会社で働く従業員ではなく、会社へ出資する人または法人を意味します。
株式による外部出資や事業承継を重視する人は株式会社が候補
株式による外部出資や事業承継を重視する人は、株式会社が向いていると言えます。例えば以下のケースです。
- 投資家や他社から、株式と引き換えに出資を受けたい
- 親族、従業員、第三者へ株式を移し、事業を引き継ぎたい
- 出資する人と、実際に経営する人を分けたい
- 将来、複数の株主を受け入れることを想定している
反対に、外部出資を受ける予定がなく、経営者も変わらない場合は、株式会社の仕組みを使う場面は限られる可能性があります。
「将来使うかもしれない」という理由だけで決めるのではなく、設立費用・任期管理・決算公告などの負担を比べて選びましょう。
少人数で設立・運営の負担を抑えたい人は合同会社が候補
合同会社を選ぶときの判断基準は、主に「法人にする必要はあるが、株式を使う予定はないか」です。次の条件に当てはまる人は、合同会社が向いているでしょう。
- 一人または少人数の出資者が、そのまま経営に関わる
- 株式による外部出資や、株式を使った事業承継を予定していない
- 株式会社より設立時の法定費用を抑えたい
- 取締役の任期管理や毎期の決算公告を必要としない形にしたい
二人以上で設立する場合は、少人数だからこそ、誰が何を決めるのか、利益をどう分けるのか、退社や持分の譲渡が生じたときにどうするのかを定款で明確にしておくことが重要です。
ただし、合同会社も法人です。法人税の申告、社会保険、法人住民税の均等割などの負担は生じます。設立費用の安さだけではなく、法人化後の年間負担まで確認して決めましょう。
まず小さく始めたい人は個人事業が候補
個人事業を選ぶときの判断基準は、「現時点で法人である必要があるか」です。次のようなケースは、まず個人事業から始める選択肢もあります。
- 売上の見通しがまだ固まっておらず、事業として成り立つか試したい
- 取引先や許認可の条件として、法人であることを求められていない
- 法人の設立費用や毎年の申告・維持負担を、今は負わずに始めたい
- 一人で小さく始め、事業内容を調整しながら育てたい
ただし、個人事業主と事業は法律上分かれていません。事業の借金や損害賠償などが生じた場合は、原則として事業主個人が責任を負います。大きな借入れを予定している場合や、従業員を雇う場合、法人でなければ結べない取引がある場合などは、初めから法人を選ぶ方が合うこともあります。
個人事業から後で法人へ変えることもできますが、事業用資産、契約、借入れ、許認可などを法人へ移す手続が必要になる場合があります。始めやすさだけでなく、法人へ移る可能性とその時期も考えて決めましょう。
税金だけでなく社会保険と手元資金まで比べて選ぶ
株式会社・合同会社・個人事業のどれを選ぶかは、税金だけを比べても決められません。次の順番で、同じ1年間の数字を比べることが大切です。
- どの形でも売上と事業経費を同じ条件にする
- 法人税や所得税、住民税などを計算する
- 社会保険料、法人住民税の均等割、設立・申告費用を加える
- 会社と個人の預金に、最終的にいくら残るかを確認する
税金だけが少なくても、社会保険料や固定費が増えて手元のお金が減れば、法人化の効果があったとは言い切れません。会社に残るお金と、生活に使える個人のお金を分けて計算しましょう。
事業形態で迷うときに税理士へ相談できること
税理士へ相談する目的は、制度の説明を聞くだけではありません。予定している売上・経費・生活費・人員などを数字に置き換え、どの事業形態を選ぶか、会社を作るなら何を決めるかを具体的にできることです。
木下博昭税理士事務所では、相談内容に応じて、次のような相談ができます。
| 相談例 | 分かること |
|---|---|
| 融資を受けたいのですが、サポートを受けられますか? | 同じ売上・経費の前提で、株式会社・合同会社・個人事業を比べ、会社と個人に年間でどの程度のお金が残る見込みか |
| 役員報酬はいくらがいいですか? | 役員給与の金額を変えた場合の法人税、個人の所得税・住民税、社会保険料への影響 |
| 設立後にすることはなんですか? | 会計ソフト、記帳方法、給与計算、申告・納付まで、設立後に必要な準備 |
税理士へ相談したからといって、必ず税金が安くなる、必ず融資を受けられるというものではありません。相談によって得られるのは、将来を保証する答えではなく、現在の計画を数字で比べるための判断材料です。
木下博昭税理士事務所では、初回面談を無料で受け付けています。売上や利益の見込みが固まっていない段階でも、分かる範囲の情報から相談できます。電話、問い合わせフォーム、LINEからお問い合わせください。
まとめ
株式会社には、取引先や求職者から信用を得やすい傾向があります。株式による外部出資、株主と取締役の役割分担、有限責任、税務上の選択肢、株式を使った事業承継も主なメリットです。
一方、合同会社より設立時の法定費用が高く、取締役の任期満了時には再任などの登記手続が必要です。
選ぶ基準は、メリットの数ではなく、その仕組みを実際に使う予定があるかです。株式による外部出資や事業承継を具体的に考えているなら株式会社、法人は必要でも株式を使わず少人数で運営するなら合同会社、現時点で法人にする必要がなく小さく試したいなら個人事業が候補になります。
税金だけでなく、社会保険料、設立・維持費、生活費、運転資金を同じ条件で比べ、会社と個人に残るお金を確認しましょう。判断に迷う場合は、会社を作る前に専門家へ相談し、設立後まで資金が回るかを確かめることが大切です。
投稿者プロフィール

- 税理士/南九州税理士会 139642
-
熊本生まれ 熊本育ち
税理士の木下博昭です。税理士業界歴21年!
節税や補助金、創業融資などを利用して、会社にお金を残す!
これに特化した経営支援を行いたいと思い独立を決意。
令和元年、令和のスタートともに独立しました。
もちろん、税制を活用した節税も行います。
農業コンサルタント向けに税制改正や節税の講演も実施しています。
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