
個人事業主の売上が5,000万円に近づくと、「簡易課税が使えなくなる?」「税金はいくらになる?」「そろそろ法人化した方がいい?」と気になる方も多いでしょう。結論からいうと、売上5,000万円という金額が特に関係するのは、消費税の簡易課税を使えるかどうかの判定です。
ただし、今年の売上が5,000万円になっただけで、すぐに簡易課税が使えなくなるわけではありません。また、売上5,000万円を超えても、法人化が必須ではありません。
売上が5,000万円に近づいたら、まず次の3つを確認しましょう。
- 前々年の課税売上高はいくらだったか
- 現在、どれくらい利益が出ているか
- 今後、設備投資や事業拡大を予定しているか
順番に解説します。
個人事業主の売上5,000万円に関するよくある質問
-
その年から簡易課税は使えなくなりますか?
-
原則として、今年の売上が5,000万円を超えただけで、その年から簡易課税が使えなくなるわけではありません。
個人事業主の場合、簡易課税を適用できるかは、原則として前々年の課税売上高で判定します。詳しくは後ほど解説します。
-
5,000万円を超えたら法人化しなければなりませんか?
-
法人化する義務はありません。
法人化するかどうかは売上だけではなく、利益、税金、社会保険料、会社の維持費、今後の事業計画などを比べて判断します。
-
法人化すれば消費税を払わなくて済みますか?
-
法人を設立したからといって、必ず消費税が免税になるわけではありません。
資本金や設立後の売上、インボイス発行事業者の登録状況などによって、設立直後から課税事業者になる場合があります。消費税を理由に法人化する場合は、設立前に確認しておきましょう。
- 1. 個人事業主の売上5,000万円に関するよくある質問
- 2. 売上5,000万円を超えると簡易課税が使えない場合がある
- 2.1. 原則、前々年の課税売上高が5,000万円以下なら簡易課税を選べる
- 2.2. 基準額を超えると簡易課税は使えない
- 2.3. 今年超えてもすぐに計算方法が変わるわけではない
- 3. 売上5,000万円でも税金がいくらになるかは人によって違う
- 4. 個人事業主の税金を3つの利益パターンでシミュレーション
- 4.1. 利益500万円の場合
- 4.2. 利益1,000万円の場合
- 4.3. 利益2,000万円の場合
- 5. 簡易課税と一般課税のどちらが有利かを比べる
- 5.1. 簡易課税は業種ごとに決められた割合を使って計算する
- 5.2. 一般課税は実際の仕入れや経費などを基に計算する
- 5.3. 仕入れ・外注費・設備投資の予定で有利不利が変わる
- 5.4. 複数の事業をしている場合は業種ごとの売上を確認する
- 6. 売上5,000万円に近づいたときの確認手順
- 7. 売上5,000万円を超えても法人化は義務ではない
- 7.1. 売上ではなく利益と今後の事業計画で判断する
- 7.2. 税金・社会保険料・会社の維持費まで含めて比べる
- 7.3. 事業を拡大する予定があるなら法人化のメリットも確認する
- 8. 売上5,000万円前後で税理士への相談を検討したいケース
- 9. まとめ
売上5,000万円を超えると簡易課税が使えない場合がある
個人事業主にとって「5,000万円」が重要になる代表的な制度が、消費税の簡易課税です。ここで注意したいのは、普段使っている「年間売上」と、消費税で使う「課税売上高」が必ずしも同じではないことです。
非課税取引や免税取引などがある場合は金額が異なることがあります。
原則、前々年の課税売上高が5,000万円以下なら簡易課税を選べる
個人事業主の場合、簡易課税を適用できるかは、原則として前々年の課税売上高で判断します。
| 前々年の課税売上高 | 簡易課税 |
|---|---|
| 5,000万円以下 | 届出などの条件を満たせば適用可能 |
| 5,000万円超 | 適用できない |
たとえば、2026年分の簡易課税を判定するときは、原則として2024年の課税売上高を確認します。
そのため、2026年に初めて課税売上高が5,000万円を超えた場合でも、それだけで2026年の簡易課税が使えなくなるわけではありません。2026年の売上は、原則として2028年分の判定に影響します。
なお、課税売上高が5,000万円以下であれば自動的に簡易課税になるわけではありません。原則として「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出なども必要です。
参考:国税庁「簡易課税制度とは」
基準額を超えると簡易課税は使えない
前々年の課税売上高が5,000万円を超えている場合、その年は原則として簡易課税を適用できません。その場合は、実際の課税仕入れなどを基に消費税を計算する方法で申告します。
簡易課税から一般課税へ変わると、仕入れや外注費、設備投資などに含まれる消費税を確認する必要があります。そのため、将来一般課税になることが分かった時点で、帳簿や請求書の管理方法も確認しておくとよいでしょう。
今年超えてもすぐに計算方法が変わるわけではない
今年初めて課税売上高が5,000万円を超えた場合でも、原則としてその年の消費税の計算方法には直接影響しません。重要なのは、「今年いくら売れたか」と「今年簡易課税を使えるか」を分けて考えることです。
売上が伸びてきた段階で、将来の消費税額と納税資金を確認しておきましょう。
売上5,000万円でも税金がいくらになるかは人によって違う
売上が5,000万円だからといって、税金が一律に決まるわけではありません。個人事業主の所得税などは、基本的に売上ではなく、売上から必要経費を差し引いた利益をもとに計算するためです。
主な税金と、金額が変わる要因を整理すると次のようになります。
| 税金 | 主に金額が変わる要因 |
|---|---|
| 所得税・復興特別所得税 | 利益、所得控除、税率 |
| 住民税 | 所得、所得控除、自治体 |
| 個人事業税 | 業種、利益、事業主控除、税率 |
| 消費税 | 課税売上高、税率、計算方法 |
たとえば売上が同じ5,000万円でも、利益500万円の事業と利益2,000万円の事業では、所得税などの負担は大きく異なります。
個人事業主の税金を3つの利益パターンでシミュレーション
売上5,000万円でも、利益によって税負担がどの程度変わるのかを見てみましょう。以下は比較しやすくするための条件です。
- 2026年分
- 熊本市在住、熊本県内で事業
- 税抜課税売上5,000万円
- 売上はすべて標準税率10%の課税売上
- 青色申告特別控除65万円を適用
- 配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除などは考慮しない
- 個人事業税は法定業種、税率5%
- 消費税は簡易課税、第5種事業、みなし仕入率50%
- 社会保険料は税金に含めない
「利益」は、青色申告特別控除を差し引く前の金額とします。
| 売上 | 必要経費 | 利益 | 所得税・復興特別所得税 | 住民税 | 個人事業税 | 消費税 | 税金合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 4,500万円 | 500万円 | 16万円 | 32万円 | 10.5万円 | 250万円 | 約308.5万円 |
| 5,000万円 | 4,000万円 | 1,000万円 | 112万円 | 78万円 | 35.5万円 | 250万円 | 約475.5万円 |
| 5,000万円 | 3,000万円 | 2,000万円 | 434万円 | 178万円 | 85.5万円 | 250万円 | 約947.5万円 |
※実際の税額は、所得控除、事業内容、経費、消費税の計算方法などによって変わります。
参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」
参考:熊本県「個人事業税」
利益500万円の場合
利益500万円の場合、所得税と住民税の合計は約48万円となります。一方、簡易課税による消費税は250万円となっています。
そのため、利益500万円のケースでは、所得税だけを見るのではなく、消費税の納税資金も別に確保しておくことが重要です。
利益1,000万円の場合
利益1,000万円の場合、所得税と住民税の合計は約190万円となります。消費税250万円などを合わせると、税金の合計は約475.5万円です。
ただし、この475.5万円を一度に支払うわけではありません。税金によって納付時期が異なるため、年間でいくら必要になるかだけではなく、いつ納税するのかまで確認しておくことが大切です。
利益2,000万円の場合
利益2,000万円の場合、所得税と住民税の合計は約612万円となり、税金の合計は約947.5万円です。この利益水準になると、所得税や住民税の負担も大きくなります。
そのため、個人事業主を続ける場合と法人化する場合について、
- 所得税・法人税
- 社会保険料
- 役員報酬
- 法人の維持費
- 手元に残る資金
まで含めて比較する意味が大きくなります。
簡易課税と一般課税のどちらが有利かを比べる
簡易課税を使える場合でも、必ず簡易課税の方が税金が少なくなるとは限りません。実際の仕入れや外注費、設備投資の金額によっては、一般課税の方が有利になることもあります。
| 比較項目 | 簡易課税 | 一般課税 |
|---|---|---|
| 基本的な計算方法 | 業種ごとのみなし仕入率を使う | 実際の課税仕入れなどを使う |
| 実際の仕入れ・経費 | 原則として金額が直接反映されない | 課税仕入れの金額が反映される |
| 大きな設備投資 | 原則として実額を直接控除しない | 課税仕入れなら控除に影響する |
| 確認したいケース | 実際の課税仕入れが少ない事業 | 仕入れ・外注・設備投資が多い事業 |
簡易課税は業種ごとに決められた割合を使って計算する
簡易課税では、実際にいくら仕入れたかではなく、事業の種類ごとに決められた「みなし仕入率」を使います。たとえばサービス業などに該当する第5種事業のみなし仕入率は50%です。
実際の課税仕入れが少ない事業では、簡易課税の方が納付税額を抑えられる場合があります。一方、実際に多くの仕入れや設備投資をしても、その金額がそのまま消費税の計算に反映されるわけではありません。
一般課税は実際の仕入れや経費などを基に計算する
一般課税では、売上にかかる消費税から、仕入れや外注費、設備購入などにかかった控除対象の消費税を差し引いて納付税額を計算します。そのため、課税仕入れが多い事業では、簡易課税より一般課税の方が有利になる可能性があります。
ただし、家賃や人件費などを含め、事業の支出すべてについて消費税を差し引けるわけではありません。「経費が多いから一般課税の方が得」と単純に判断しないことが大切です。
仕入れ・外注費・設備投資の予定で有利不利が変わる
特に注意したいのが、大きな設備投資を予定している場合です。
一般課税では、控除対象となる設備投資の消費税が計算に反映されるため、投資額によっては納税額が大きく変わることがあります。一方、簡易課税では、原則として実際の設備投資額ではなく、みなし仕入率を使います。
そのため、「今年は簡易課税が得か」だけではなく、「来年、大きな設備を購入する予定はないか」まで確認してから判断することが重要です。
簡易課税には届出期限や継続適用に関するルールもあるため、設備を購入してから考えるのではなく、投資を決める前に確認しましょう。
複数の事業をしている場合は業種ごとの売上を確認する
簡易課税のみなし仕入率は、事業の種類によって異なります。そのため、複数の事業をしている場合は、それぞれの事業がどの区分に当たるのかを確認しましょう。
売上5,000万円に近づいたときの確認手順
売上が5,000万円に近づいたからといって、すぐに法人を設立する必要はありません。まずは次の順番で数字を確認しましょう。
前々年の課税売上高を確認する
まず、今年の簡易課税を使えるか確認します。
今年の売上と利益を確認する
「5,000万円売れた」だけでなく、経費を差し引いた利益がいくら残るのかを確認します。
一般課税になった場合の消費税を試算する
仕入れ、外注費、設備投資などを整理して、今後の消費税負担を確認します。
設備投資と納税資金を確認する
今後予定している支出と、税金を支払った後に残る資金を確認します。
個人事業主を続ける場合と法人化する場合を比べる
利益が継続して出る見込みであれば、税金、社会保険料、維持費まで含めて法人化を検討します。
この順番で確認すれば、「売上が5,000万円を超えたから、とりあえず法人化する」といった判断を避けやすくなります。
簡易課税が使えなくなる時期や一般課税になった場合の消費税額は、売上だけでは判断できません。現在の売上・利益・経費・設備投資の予定まで整理すると、今後必要になる納税資金も見えやすくなります。
木下博昭税理士事務所では、個人事業主を続けた場合と法人化した場合の違いも含めて相談できます。まずはお気軽にお問い合わせください。
売上5,000万円を超えても法人化は義務ではない
売上5,000万円を超えても、法人化する義務はありません。個人事業主のまま売上5,000万円を超えて事業を続けることもできます。法人化を検討するときは、売上そのものより、利益が今後も継続するかを見ることが重要です。
売上ではなく利益と今後の事業計画で判断する
たとえば、次の2人はどちらも売上5,000万円です。
- Aさん:利益500万円
- Bさん:利益2,000万円
同じ売上でも、法人化による税金への影響は大きく異なります。そのため、法人化を検討するときは、現在の利益と今後数年間の利益予想を確認しましょう。
あわせて、
- 従業員を増やす予定がある
- 大きな設備投資を予定している
- 金融機関から借入を予定している
- 法人との取引を増やしたい
といった事業計画も整理します。
法人化は節税だけを目的に決めるものではありません。
税金・社会保険料・会社の維持費まで含めて比べる
法人化するかどうかを判断するときに、所得税と法人税だけを比べるのは不十分です。法人化すると、代表者が受け取る役員報酬の税金や社会保険料、法人側の社会保険料負担なども発生します。
また、
- 法人住民税
- 法人の決算・申告費用
- 登記などの費用
- 経理や給与計算の手間
なども考える必要があります。
法人事業所は、事業主のみの場合を含め、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所です。そのため、法人化前後を比較するときは、税金ではなく最終的に手元へいくら残るかを見ることが重要です。
事業を拡大する予定があるなら法人化のメリットも確認する
売上5,000万円前後まで事業が成長している場合は、税金以外の理由から法人化を検討するケースもあります。
たとえば、
- 従業員を増やす
- 新しい店舗や事業所を出す
- 借入を増やす
- 取引先を増やす
といった計画がある場合です。
法人化したからといって信用や融資が必ず有利になるわけではありませんが、今後の事業計画によっては法人の方が運営しやすいことがあります。
一方で、法人を設立しても消費税が必ず免税になるわけではありません。法人化による税金と手取りについては、以下の記事で詳しく解説しています。
参考:国税庁「No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき」
売上5,000万円前後で税理士への相談を検討したいケース
売上5,000万円前後になると、簡易課税だけでなく設備投資、法人化をまとめて判断する必要が出てくることがあります。特に、次のような場合は税理士への相談を検討するとよいでしょう。
- 前々年の課税売上高が5,000万円前後になっている
- 簡易課税から一般課税へ変わる可能性がある
- 一般課税になった場合の消費税額が分からない
- 大きな設備投資や外注費の増加を予定している
- 消費税の納税資金を確保できるか不安がある
- 個人事業主を続けるか法人化するか迷っている
特に法人化については、「法人にした方が税率が低いか」だけで判断すると、社会保険料や会社の維持費を含めた結果が見えません。木下博昭税理士事務所では、個人事業主の消費税や法人化についての相談に対応しています。
現在の売上と利益をもとに、簡易課税の適用時期や法人化した場合の手元資金を確認したい方はご相談ください。初回面談は無料で、電話・お問い合わせフォーム・LINEから相談できます。
まとめ
個人事業主の売上が5,000万円に近づいたときは、次の3点を確認しましょう。
- 簡易課税は、原則として前々年の課税売上高が5,000万円以下かで判定する
- 実際の税負担は売上ではなく利益や消費税の計算方法によって変わる
- 売上5,000万円を超えても法人化は義務ではなく、手元資金まで比べて判断する
特に注意したいのは、「今年5,000万円を超えたから、すぐに簡易課税が使えなくなる」と考えないことです。まず前々年の課税売上高を確認し、そのうえで今後の消費税と法人化を検討しましょう。
「このまま個人事業主を続けてよいのか」「法人化すると実際にいくら手元に残るのか」を数字で確認したい方は、木下博昭税理士事務所へご相談ください。
投稿者プロフィール

- 税理士/南九州税理士会 139642
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熊本生まれ 熊本育ち
税理士の木下博昭です。税理士業界歴21年!
節税や補助金、創業融資などを利用して、会社にお金を残す!
これに特化した経営支援を行いたいと思い独立を決意。
令和元年、令和のスタートともに独立しました。
もちろん、税制を活用した節税も行います。
農業コンサルタント向けに税制改正や節税の講演も実施しています。
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